私は市中の急性期病院で研修医として約2年間勤務してきました。急性期としての加療が終わるとリハビリ転院や慢性期病院に転院される方や、在宅医療に移行される方がたくさんいらっしゃいましたが、その先で何が行われているかはほとんど知りませんでした。
初めの1週間はいろいろな先生につかせていただき、それぞれの診療を見学させていただきました。その後は徐々に医師は私のみで、看護師さんやアシスタントさんに付いていただき診療を行わせていただきました。ローテーション初期は、まず医療スタッフ自らが出向き患者様のテリトリーに入り診療を行うという特殊さに総合病院との大きなギャップを感じました。行える検査も当然ながら限られており、普段のように気軽に採血や画像検査ができない中で如何に判断し、必要であれば搬送を考えるかという難しさを実感しました。また、身体診察や問診がいかに大切か、普段自分がどれほど検査に頼りきってしまっているかを再認識させられました。先生方を見学させていただいていると、身体所見と問診が主であり、採血は最低限、画像はポータブルエコーまでで判断、という普段の自分では考えられないほどシンプルな診察をされていて非常に勉強になりました。
ギャップだけではなく「むしろ在宅でここまで医療行為ができるのか」ということにも驚かされました。「さすがに点滴が必要になれば病院に行くのかな」と考えていましたが、自宅で点滴もできると知り、さらにそれぞれのご自宅で点滴棒を自作していただき、抜針も覚えていただいたりと、やろうと思えばいくらでも医療行為ができるのではないかという可能性さえ感じました。在宅酸素療法や在宅人工呼吸器など、言葉で聞いたことはあっても実際に見るのは初めてでした。
また在宅医療ならではの患者様として、癌終末期でBSC方針となっている方の管理や、老衰でお見取り方針となっている方の訪問もさせていただきました。癌終末期の方で難しいのは、患者様自身の受け入れに関してだと感じました。特に若年の方では、自分が癌になって死が近いというのは受け入れ難い事実であり、実際に訪問させていただいた方もほぼ全く受け入れられていない方がいらっしゃいました。医療スタッフやご家族様がしようとしたことを全て拒否され、外部からの介入もして欲しくない、といったご様子でした。もともとが強がりな性格だと家族様は仰っていましたが、それ以上に自分が癌終末期の患者であることを受け入れられておらず、この先自分はどうなってしまうのか、家にやってくるこの人たちに何ができるのか、といった不安でいっぱいなのだろうという印象でした。まだその方は在宅医療の介入を始めた直後であり、その後私が訪問する機会はありませんでしたが、担当されていた先生は、回数を重ね信頼を得ていくしかないと仰っていました。かなり根気の必要なことだと思いましたが、自宅にいることを望む患者様やその家族様の要望に最大限寄り添おうとする姿勢に感銘を受けました。
また全体を通して、家族様や他の福祉のサポートの重要性を感じました。上述した点滴のことや、人工呼吸器管理をしている方の吸引処置、薬剤管理など、家族様の手が無ければなし得ない部分も在宅医療にはたくさんあり、医療者以上の時間をかけて患者様に当たっていただき在宅医療を可能としてくださっている家族様には感謝が尽きないと感じました。
患者様の背景が様々である以上、やはり家族のサポートが受けられない方もいらっしゃいますが、そんな時に訪問看護や訪問ヘルパーの方はもちろんのこと、さらに近隣の方が援助してくださっている例もあり、たくさんの人に支えられながら1人の患者様の望みを叶える尊さを目の当たりにしました。
普段の病院とのギャップに驚き、単独で訪問診療を行うのに緊張した1ヶ月間でしたが、その分たくさんのことに気付かされ、感銘を受け、後期研修へ向けて少し逞しくなれた1ヶ月でもありました。短い期間ではありましたが、見学をさせていただき指導をしていただいた先生方、たくさんご迷惑をおかけしても温かく見守って診療を共にしていただいた看護師さんやアシスタントさん、ケアマネジャーさんや事務の皆さん、お世話になりました。ありがとうございました。