1か月間、温かいご指導のもと在宅医療を学ばせていただき、誠にありがとうございました。短い間ではありましたが、たくさんの初めて得る知識や経験との出会いがあり、私にとって非常に濃密な1か月間となりました。
初めは院長の訪問診療・往診に同行し、医療用麻薬での疼痛コントロール方法やステロイドの使い方などの医学的知識だけでなく、患者さんとの打ち解け方、老若男女問わず万人受けする軽快なジョーク、重たくなりそうな雰囲気を明るく一変させられるポジティブな思考や話し方などコミュニケーション能力の面でも多くのことを学ばせていただきました。2週目以降は、徐々に看護師さんやアシスタントさんと共に1人の医師としての訪問診療が始まりました。いつでも院長に電話で相談できるとはいえ不安な気持ちもありましたが、温かく迎えてくださった患者さん・ご家族、それぞれの家庭を深く理解されており、在宅医療のプロフェッショナルなコメディカルの皆様の支えのおかげで、まだまだ未熟ではありますが堂々と訪問診療ができるほどには成長することができたと思っています。都会の在宅クリニックのなかには医師1人で回る病院もあると伺いましたが、医師とはまた違った視点から患者さん・ご家族への医学的・精神的サポートをすることができる存在であるコメディカルの方々の存在は必要不可欠であると実感しました。
この研修を通して、最も衝撃的だったことは「死」の過程を詳しくご家族に説明していたことです。患者さんの看取りが近づいたとき、ご家族を別の部屋に呼び、「お迎えがくるまでにどのような変化が起きるか」について詳細に書かれた紙をお渡しし、それに基づいて説明します。人の自然な免疫反応として、死の直前にはβエンドルフィンが分泌され幸せな夢を見ること、省エネモードになるため飲水・食事量は減り、眠っていることが多くなり、身体を綺麗にするために嘔吐や下痢があったり、脂肪を燃焼させているため暑がったりすることもあるなど(特に私は12月に研修させていただいたため、患者さんが寒がるのではないかと心配したご家族に毛布や布団をたくさん被せられ、暑くて苦しそうにされていた方を多く見かけました)…諸説あるとは思いますが、このようなことを理由付けして家族さんに説明すると、無知からくる死への恐怖感を和らげることができます。疼痛コントロールがうまくいっていれば、患者さんは安らかな顔をされていることが多いので、ご家族も安心して、通過儀礼のように死へのステップを受け入れられていました。
私の実家はお寺で、幼少期からお葬式など他人の死に触れ合う機会は多かったのですが、恥ずかしながら死にゆく過程について深く考えたことがなかったですし、それは医師になってからも同じでした。これを機に、一度死について自分でも考え直し、死に関わる場面では、医師としてしっかりした説明ができるようになろうと思います。
在宅医療の現場では、ご家族が死の過程について説明を受け、患者さんの死への受け入れができていることが多く、看取り直後でも笑顔や笑いを交えた思い出話が飛び交っていたり、在宅での看取りをやり切ったという達成感をもたれていたりといった、家族の絆を感じられる素敵な場面をたくさんみることができました。医師であってもそこまで多くは経験しないような看取りの場に何度か立ち会わせていただき、急性期の病院で専門科の医師として働く前に、このような貴重な経験ができて本当によかったです。自分自身も緩和ケアが必要な状態となったときには住み慣れた自宅で最期を迎えたいなと思いましたし、今後在宅医療の需要は増える一方だと思いますので、もっともっと在宅医療が広まり、このような素敵な施設、従事者の方々が増えていくことを祈っています。これからも、病院では見えない患者さんの生活や人生にまで考えを巡らせ、患者さんやご家族の希望を叶えられるような医療を提供できるように邁進していきたいと思います。最後になりますが、1か月間温かく見守り、支えてくださった皆様、本当にありがとうございました。